ルールにうるさいSさんがボールを拾った話

私がゴルフ場で働いていたころ、ルールにうるさいSさんという人がいました。

彼はルールにうるさいことで有名で、ゴルフはあるがままにプレーするというのが彼の基本スタイル。

彼とゴルフをやれば基本ノータッチ。

それは、ゴルフ初心者に対しても例外ではなく、初心者ゴルファーでは絶対に上手く打てることのない難しいライからでも鬼の形相でボールを動かすことは認めません。

そんなSさんと某有名ゴルフ場でプレーしていた時のこと。

その日は風が強い日でした。

そのゴルフ場は、ゴルフ場としては珍しくグリーンが高麗芝でした。

簡単に説明しますと、ゴルフ場のグリーンには大きく分けると高麗芝とベント芝がありまして、基本的にはベントは速い、高麗は遅いという特徴があるんですね。

ここまでは、アベレージゴルファーなら誰でも知っている一般的な知識ですが、実は高麗芝、手入れ次第ではめちゃめちゃ高速グリーンになってしまうことがあります。

特に冬場の高麗グリーンは、夏の顔から一転して超高速グリーンになります。

それは9番ホールの出来事。

ショートホールをワンオンしたSさんは、セオリー通りの戦略で手前から攻め、ホールの下3mのバーディーチャンスにつけました。

あとは、上りの3mのパットを沈めるだけという状況でSさんがパッティングすると、ホール手前で寸止まりました。

「OK」と言おうとしたのですが、時すでに遅し。風でボールが押し戻され、戻り始めました。

ホール手前で止まったボールは、少しだけ風で戻され、その反動と下り傾斜と芝の目でスルスルとSさんが元打った場所へ戻っていきます。

戻るだけならまだしも勢いづいたボールはそのままグリーンの外へ・・

Sさんは、「マジかよ!あり得ねえよ・・」と笑いながら外からのアプローチに備えました。

これが、これから起こる悲劇の前兆でした。

外からのアプローチはさすがはシングルプレーヤー、若干スピンが効いたランニングアプローチで絶妙なタッチでカップに向かっていきます。

が、またもや寸止め、そして・・ここまで読んでいただいた皆様のご想像通り、風に押されてボールが戻ってきます。

そしてSさんの足元に。

もう、この地点でSさんから笑顔が消えていました。

そして、もう一度アプローチ、そして通常ならナイスアプローチと言えるショット。

そう、通常なら・・

またしてもカップ手前でボールは一旦止まり、風に押されて戻ってきます。

そして再度Sさんの足元へ。

Sさんは無言。

顔は、初心者ゴルファーがルール違反しないように見張っている時の鬼の形相どころの騒ぎではなく、冬なのに顔が赤くなって怒りで震えているのがわかります。

まさに、赤鬼。

同伴者もそれを察し、頼むからボールよ止まってくれという祈りますが、再度打ち直したボールも、同じように戻ってしまいます。

これは・・厳しい・・

ルールにうるさいSさんだから恐らくギブアップはしないでしょう。

そうなれば、根気勝負。

というか、カップインするまで次に進めない・・

それまで、この非常に気まずい空気は継続するのか・・

などと思っていると、戻ってきたボールを無言で拾ってSさんは、「トリプルボギー」と言いました。

一瞬、「えっ?ルールは・・」と誰もが頭をかすめたと思いますが、この場合は仕方ないよねと誰もSさんには突っ込めませんでしたとさ。

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